渡り腮(あご)構法 割れ、反り、ねじれ、収縮。 木の厄介さを受け入れる構法が安心感を生む。 渡り腮構法は、梁と梁を渡り腮で組んだ軸組に、耐力壁や水平構面などの構造要素を統合した木の構造システムです。 渡り腮とは、下の木に上の木を載せかけた木の組み方のことで、それ自体は、法隆寺の妻室(つまむろ)にも見られるように古くからある木の組み方のひとつです。その渡り腮を基本の構造要素として位置づけ、現代の構造的知見に照らしながら、建築物全体をつくるための具体的な設計法としてまとめたのは、丹呉明恭さんと山辺豊彦さんの二人です。二人の共著「渡り腮構法の住宅のつくり方」(建築技術)という本を通して私はこの構法と出会いました。渡り腮構法は、梁と梁を渡り腮で組んだ軸組に、耐力壁や水平構面などの構造要素を統合した木の構造システムです。 梁と梁を接合する仕口に渡り腮を選ぶ理由は、鉛直荷重の伝達に安心感があるからです。木材は「動く」材料です。不均質な材料で、乾燥収縮により縮み、反り、ねじれ、また、割れます。地震時の「動き」も大きく、鉄筋コンクリート造などと比べると接合部に生じる変形が大きくなるのも特徴です。渡り腮は梁と梁を大きくまたぐようにして組むため、動きに対して許容できる巾が大きい納まりと言え、そのことが安心感を与えてくれます。木という材料の特性を理解するにつれ、渡り腮構法が「木に従う構法」であることを実感します。 渡り腮構法で採用されている技術のなかには、古くから伝わる技術もありますが、あらたに考案された技術もあります。両者に共通するのは木の特性に従って木を扱うという合理性を追求している点です。私はこの点に強い魅力を感じています。それは、古く固定化した技術の繰り返しではなく、木の特性に従うという合理性を自らにも常に問い続ける姿勢が、この構法を広く開かれた技術たらしめていると思うからです。そして、私自身もこのような姿勢で設計に取り組み、実践していきたいと思っています。 <トピックス>にもどる☞