敷地は数十年前の宅地開発による分譲地の一画にあり、今計画は古くなった旧宅の建替えである。
面積的な制約が厳しく、規模は自ずと限られるため、階段の配置の仕方ひとつでまるで違った住まいになってしまう。どのような階段の配置にすればこの住宅に拡がりと落ち着きを与えることができ、快適な住まいをつくることができるのか、試行錯誤の末、階段を中心とした回遊性のあるプランを採用することにした。このプランをベースに、畳の間が連なる伝統的な建築に見られるような空間の連続性、奥行き、可変性といった空間のエッセンスのようなものを盛り込み、ワンフロア10坪のこの住宅に活き活きとした息を吹き込みたいと思い計画を練った。
建主が暮らし初めて3ヶ月。そのおおらかな暮らしぶりを見ていると、住まい手の住みこなしのうまさとあいまって、この住宅に拡がりと落ち着きが備わったように感じる。プランだけを見ると単なる部屋の羅列にしか見えないこの住宅が、実際は、建主の暮らしを穏やかに包み込み、変化と奥行きに富んだ魅力に溢れている様子を見て、あらためて伝統的な建築が今日に伝えているものの大きさを実感している。
■牟礼の家
所在地 東京都
用途 専用住宅
敷地面積 83.32㎡
建築面積 33.31㎡
延床面積 65.86㎡(+小屋裏7.04㎡)
構造 木造
規模 地上2階
竣工 2013年4月
設計監理 菅家太建築設計事務所
構造設計 平木建築構造研究所
施工 渡辺富工務店
写真 鳥村鋼一写真事務所